流転の海 2016-12-14

タブクリアです、こんにちは。
「読書の秋」は少し前に終わってしまいましたが、今回は本の話題を。

私が二十年近くの間、新作の刊行を楽しみにしている本があります。
芥川賞作家、宮本輝さんの半自伝的小説「流転の海」シリーズです。
半自伝的、というのは、主人公のモデルが作者自身ではなく、作者の両親(特に父親)だからです。
主な舞台は大阪、兵庫を中心とした関西で、戦後間もない時期を起点に、途中、愛媛、富山に舞台を移しつつ、高度経済成長期にかけて話が進んでいきます。

シリーズ各部のタイトルと刊行年(単行本)は、次のようになります。
タイトルも単純に「流転の海・第一巻~第九巻」とせず、それぞれ各部の内容に合わせてきれいなタイトルが付けられているのも気に入っています。

第一部 流転の海 1984
第二部 地の星  1992
第三部 血脈の火 1996
第四部 天の夜曲 2002
第五部 花の回廊 2007
第六部 慈雨の音 2011
第七部 満月の道 2014
第八部 長流の畔 2016
第九部 野の春  雑誌連載中

このシリーズを読み始めたのは、社会人になってまだ間もない二十年近く前になります。
舞台の中でも特に印象的だった、愛媛にも行ったこともあります。
(愛媛でも高知寄りの地域なので、行くのはなかなか大変でした…)

元々は第五部で完結する予定だったのですが、だんだんボリュームが増えてきて、最終的には倍近く、第九部での完結となる予定です。
年配の読者からは、生きているうちに完結させてくれ、との切実な要望が寄せられているとかで、作者も焦りを感じたのか、ここに来て刊行のペースが上がっています。

第一部の執筆開始は1981年、作者34歳のときだったので、今の、70歳近い作者が仮に同じ登場人物、同じ舞台で第一部を書くと、だいぶ違った内容になるのでは、という気もします。

主人公(=作者の父)は実業家なのですが、時期や場所により、いろいろな商売に手を出します。もともとの商才に加え、人間的な魅力もある人なので、手がけた事業は概ね成功し始めます。ただ、成長軌道に乗り始めると、その事業を止めてまた新しい事業に手を出す、という悪癖があったり、従業員に何回も裏切られたりと、経営的にはなかなか安定せず、苦労の連続です。

本人は豪快な性格で、失敗しても何とかなる、またやり直せばいい、と楽観的なのですが、妻や息子(=作者の母と作者自身)は、安定した生活を望むわけです。
それでも、若いうちは、失敗しても実際、やり直しが効いていましたが、歳を重ねていくと、思うようにいかないことが多くなり、妻子との亀裂が決定的になりつつある、これが現在(第八部)の状況です。


作者の父親がモデルとはいえ、もちろん、すべてが事実だったわけではなく、多くは「事実を元にしたフィクション」ではあるのでしょうが、戦後から高度経済成長の時期の庶民の生活史の面からも、興味深く読めます。


私がBREASTOに入社してから改めて思ったのが、実業家の大変さです。

具体的には、事業を興し、業績を拡大し、従業員を雇い、家族を養うということの大変さです。BREASTO以前の職場では、あまり経営と言うものを意識することはなかったのですが、今のBREASTOの規模だと、従業員もある程度は経営面を意識せざるを得ませんし、逆に言えばそれが小規模ベンチャーで働く醍醐味ともいえます。

そういう意味でも、BREASTO入社の前と後では、本作の主人公に対する見方も変わりました。

完結編となる第九部も、現在雑誌連載中ですから、近い将来に刊行されると思いますので、またその頃に、第一部~第九部を通して読んでみて、改めて感想を書こうかなと思っています。

第七部までは文庫化されてますし、単行本、文庫とも入手しやすいので、興味のある方は一読してみてはいかがでしょうか?


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